赤線
「自分の身は自分で守らないと」と事務所で困った顔をされた。
いれないよって言ったのに、でも好きだよね?と いれてきたので ムカついて飴あげなかった。
部屋について リュックのポケットから取り出した安い飴をあげると、不思議な子だな〜って笑われたり、あーってテキトーな返事をされたりした。
いろんなひとがやって来て、優しかったり怖かったりするからすごく興味深かった。
優しくしてもらった日は心がまん丸になった。脅されたり笑ってない怖い目を見た日は 頑張ったご褒美にちょっと高いごはんを一人で食べた。
連絡を待つ間、公園の鳩の写真をいっぱい撮った。
1日のおわりに、直に万札を受け取ると異様な高揚感。顔がふにゃふにゃになってしまった。わたしなんかのからだにお金を払って貰えるんだ。
「いま誰か待ってる?」と、30代半ばの男性。「ポスティングのバイトさぼってるよ」「…お金あげたらホテル行ってくれたりする?」「いいよ」
会社が休みで暇をしていたらしい。 年を聞くと47歳というのにも驚いた覚えがある。確かに少しお腹が出ているけど、端正な顔だちと落ち着いた喋りがとても素敵だった。
アイスを買ってくれた。チラシ、会社のシュレッダーにかけてあげるって言って何百枚か持ち帰ってくれた。鞄に入れたら重すぎて爆笑してた。おにいさんいつのまにか結婚できちゃうよ って言ったら、「そう簡単じゃないんだよな。面倒くさいんだよな。」と笑ってて、なんか少し寂しかった。貰った2万5000円、駅のホームでぼんやりと電車を待った。
そういうものか。そういうものなのか 。
時々ふと思い出しては、不思議な気持ちになる。わたしの肉体にもお金がつくんだなって。そういう行為にお金がつくんだなって。
お金が必要で何度かやってみたことではあったけれど、自分に自信が無くて何度もやったことでもあった。 わたし自身に価値が無ければ生きている資格がない と、極端な考えだった。
気づいて欲しかった。認められたかった。
進学を断念して就職を失敗して 誰の一番になることも下手くそでずっと上手にできなかった。
だからいつだって誰かを試した。
喧嘩して突き放されて激昂して「わたしホテヘルしてるからね。」そう言った瞬間の丸くなった目が好きだった。泣いてくれて安心した。いつもその瞬間のためにやってたのかもしれない。
時々ふと考えては、不思議な気持ちになる。 肉体は売買できるのに、心は売買できないんだなって。
今はもうそういうことしなくなったけど、セックスワーカーだって立派な仕事だとおもう。
肉体を売るのって興味深い。 おもしろいなっておもう。 でも痛い目をみることも承知のうえでやらなきゃいけない事だとおもう。 胸をはって言うべきことでもない。
わざわざ文章にして人目につくように書いたのは、ヘビーな話を明るく話すことになんとなく意味があるような気がした。性を切り売りすることは悪みたいな考えがあまり好きではない。それが自分自身の魅力を発揮する場だとしたら素敵だなと思うし、他人にとやかく言われる筋合いは無いなとおもう。
それと 例え心が擦り切れてもそういう行為は簡単にはやめられないし、そういうスパイラルのなかでその度に自己嫌悪する必要はない。
いまのわたしの言葉には、説得力もなにも無いなとおもう。
だから忘れちゃっていい。
でもなんとなく覚えてて欲しい。
あなたの肉体に払われた金額は、あなたの値段ではない。 あなたに値段はつかない。 産まれてきてくれて今そこに居てくれてよかった。インターネットの向こうに居てくれてよかった。泣いてばかりの優しすぎるあなたで よかった。死んでも生きてても好きなのを選んで良い。でももうあとほんの少しでも生きて居てくれたら嬉しい。 裸も綺麗だけど、笑った顔のほうが可愛い。美しい。