執着


執着とは何か。

とらわれないってなんだ。

手放せるって一体なんだ。

考えていた。

考えていたけど全くわからなくなったので、やめた。

けれど次の日の朝、目が醒めるとわたしの体内から執着が消えていた。

どうやら今まで可愛がっていた執着を少し険しい顔で見つめていたため、怖がって家出してしまったらしい。

幼少期にわたしの体内にやってきた名前がわからないその生き物を、わたしはベトベトと呼んでいた。

赤黒くてなんかちょっと変だったから。

のちに何匹か、またよくわからない子たちが体内に住みはじめた。

わたしはまたテキトーに、モヤモヤとかドロドロとか呼んでいた。

大人になるにつれて、「あぁそれは多分(執着)かな」と教えてもらった。

わたしはその日から執着って呼ぶことにした。へんな名前。

執着は、面倒くさいがかなり可愛かった。

ずっとわたしにくっついていて、いつでもわたしの事ばかり頭から離れないらしかった。

気長に待てば帰って来るんだろうか。

少しわたしが怖い顔してしまったね。

みんなの体内はどんな感じなのかよくわからないが、大きく育った執着を野生に返してあげる人や、そもそも「いやウチには執着居なかったんだよなぁ」という人もちらほら居るみたい。

わたしはかなり執着を可愛がっていたので、体内に執着が居ないとちょっと寂しい気もする。

今頃 執着もわたしのことを考えているだろうか。

春めいてきたので凍死はしないだろうから、そこはホッとしている。

もしも帰ってきたら、少し甘やかし過ぎていた気もするので 躾をしようかなと思う。

その前にまず、見つめて優しく撫でてあげようと思う。