襟足
「わたしの苦しみはわたしにしかわからない。親知らずさんだってそうでしょう?」
職場の女の子がそう言った。
曇った空の下、閑散とした駅前の喫煙スペースで。
「そう思うけれど、わたしは わかって欲しいと思ってしまうよ。」
わたしの声は少し頼りなかったと思う。
彼女が数日間遠出することが苦しかった。
もう帰って来ない気がした。
「ぜんぶ 大丈夫になるよ。」
その一言が言えなくて、とりあえず両手を大きく広げてみた。
彼女は
「どうしたの?」
と、恥ずかしそうに笑ってわたしの腕の中に飛び込んでくれた。
美しい彼女が羨ましかった。
わたしも女の子になりたい。
でも、美しくないぼくは 男の子になりたい。
ちゃんと上手に死ねたら良いのに。
換気扇の下、煙草をふかして酔っている。
きみは、どうして直ぐに煙草をやめられたの。
彼女が煙草を吸う姿は、なんだか似合わなくて好きだった。
風の吹くなかを歩いて思ったのは、襟足が短いと寒いということ。
わたしの髪がいつかちゃんと伸びたら。
わたしもきみも大丈夫で在ります様に。