色相
『母親が居ないから、母親ってよくわからん』
仲良くなった友人には母親が居なかった。
「なんにもわかんないけどわかるよ。」
『俺もお前のことわかんないけどわかるよ。』
世の中には、近い値のグラデーションを持つ人間がときたま居るらしい。
出会った当初、彼は私を警戒していた。
それはわたしも同じだった。
まともなフリをしてまともじゃないのを、お互いに感じ取っていた。
「気遣いが嫌味が手に取るようにわかる。だからものすごく疲れる。」
『それに気づいた女の子初めてだよ。気づかないと思ったのに。』
『でもお前はヘンに考えすぎて、生きる事が大変そうだね。』
お互い様にね。
ある時彼が、手料理を食べたいと言った。女性の手料理を食べたことが無いからと。
わたしは慣れない手つきで大盛りのパスタを作った。
買ってきた惣菜やピザが並ぶなか、彼は
わたしの作った大盛りのパスタを一気に全て食べきった。
『おいしかった。』
満腹になった彼は、買ってきた惣菜やピザを残した。
「愛情表現ができるのに、どうして幸せになれないのかね。」
『上っ面だけの感じがするんでしょ。』
「絶対に付き合いたくないけど好きだわ。」
『わかるよ。こわいけど好き。』
もう彼とは疎遠になった。
似た者同士でも、人生は重ならないらしい。