無題



あの子の歌を聴いて泣いた。

小さなライブハウス。あの子は誰のために歌っていたんだろう。

あの子の白い肌や優しい表情、あの子のつくるカレーの味を思い出すような気がした。プリクラを撮るのを忘れた。あの子の恋路の話はどこかさっぱりとしていて、まるで他人事の様だった。

一緒にライブを観た帰りの電車で、あの子のバンドの話をした。あの子が書いた歌詞も音源も、まだわたしのiPhoneに入っている。LINEのトーク履歴はその日で途絶えたままだった。




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数か月ほど前からバンドの話を文章にしたくて仕方がなかったのだけれど、まったく構成が思い浮かばないというか。たぶん想うことが多すぎてまとまらないんだと思う。


メモ用紙に書いた、箇条書きたち。
ライブは生もの。曲は。   顔が好きになっても、曲や才能に惚れ込まなければまったく聴くわけない。解散してしまったバンドに思い馳せて。人間関係の縺れで聴きに行きずらくなったバンド。疎遠になった人。思い入れが深すぎて聴けなくなった曲。はじめて好きになったバンドのライブにはまだ行けていない。高校時代下じきに好きな歌詞を書いてた。寒い日の地元近くのライブハウス。観たいときに観る。覚えてるmc。

だそうです。
眠いときに書いたもの。

本当に大事な気持ちは上手に書き表せないのかなあなんて思った。

バンドマンはアイドルでも宗教でもない。でも。

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あの子の歌を聴いて泣いた。

バイト終わりの車内だった。
解散してしまったあの子のバンド。今は一人で歌っているらしい。

SNSに貼られたURL。あの子は誰のために歌っているんだろう。










傾慕



早朝に目が覚めて好きな曲を聴いてるときくらいしか心休まることなんてないな。特定の誰かに向けて書いたブログは伝わらなかったり不特定多数に向けたツイートは誰かを傷つけたりしてほんとに嫌になっちゃう。ミーハーだけど美学があって、酔ったときにLINEであまえるのは彼氏にだけみたいなとこがある。さっきコンビニへ行くのに運転していて ふと思い出したことがあって、以前はよく飲みの帰りの彼氏を迎えに行ったことがあった。迎えに行くとベロベロに酔ってベンチで眠っていたりした。乗せて帰る途中つらそうに「気持ちわるい」なんて言う。道端で吐いてるのをじっとみてた。帰り際にするキスが葡萄チューハイのゲロ味で、これが幸せの味か と思った。

最近あんまりベロベロに酔わないし、毎晩の晩酌は安いチューハイ一缶だし、「迎えに来て」って電話も少なくなった。「ねえあのさあ他の誰かとしてるからわたしとしなくても平気になったの」なんてダサいけど言うよ。「何かあっても最後はわたしの所に帰ってきてね」だなんて綺麗事は、生理前情緒不安定言いたくないな。「好きも愛してるも可愛いも結婚したいもヤりたいも抜きたいもわたしじゃなきゃころすから」「ねえ他の誰かとしてるからエロいことしないで平気なの」。「ねえなんでそんなこと聞くの」って寂しい顔する君に「ねーごめんねだいすきだからね一番すき」なんてぶりっ子してハグするのが好きな悪趣味な女がここに居ますよ。わかってんだぜんぶぜんぶ。今の君の生き方が、わたしに向けての愛なんでしょ。迷惑かけないようにと優しく丸くなってる君が愛しくてさ、でも時々葡萄チューハイのゲロ味キスくらいどギツいの待ってたりするんだぜ。酔ってさ「ヤりたい」しか送れなくなっても、君ならわかってくれんだろ「愛してるよ」に訳すなんて。もしも寂しくてどうしようもなくなったら またわたし金髪みたいにするからさ、黙ってハグしてくれないか。君にならネットストーキングされたいよ。君になら指のひとつくらい切り落とされたいよ。きのうも鬼LINEすみませんでした。夜遅くまでお仕事ご苦労様です。はい、今日も勉強 バイトがんばります。頑張るんで葡萄チューハイのゲロ味キスが欲しいんですが。







浮気




「二千円借りたいの。」
「彼氏に言うといいよ。」
「彼に言えないから、あなたに言うんだよ。」
「ごめんね。」
意味なし意味なし意味なし意味なし
金ヅルだなんて思ったことはないですが、助けてくれてもいいんじゃないですか、ねえ 、口でしてって言ったんだから。


昔はたびたび腹いせに浮気をすることがあったなんて話をしてから、あの子が冷たくなったよ。言わなくても良かったね。自分を肯定してるみたいでダサいんだけどさ、でも聞いても欲しいよ。  どこまで話しましたか?わたしが公園で宗教に勧誘されて、めんどくさくなって目の前で腕を切った話までしました?



手を繋いでくれなくとも笑うべきでしたか。わたしが泣いたときにくれた言葉が本心でしたか。  久しぶりに会って、素直になるなんて 御免だな。あの日の二人が手を繋げなきゃ 、それはなんて名前になるんだろう。


どうして平気な顔で咥えますか。死んだほうが綺麗なのに?強いお酒のせいで帰り道を忘れたからですか。寂しいを共有したからですか。へたくそな料理を食べて泣きました。あんなの中華丼じゃないよ。でもおいしいって言うよ。あなたも わたしに似て一人ですね。


戻ってみてもYouTube観てるから、真夜中の公園に歩きましたか。迎えに来てはくれませんでしたか。思い返せば 、抱きしめてくれた日も撫でてくれた日もありませんでしたか。あなたよりも 寂しそうな人が居てね。彼のつくった中華丼を食べました。あんまり美味しくなくてね、わたしあなたのつくるペペロンチーノが好きだよ。


あの日あなたがくれた錠剤を あるとき公園で眺めていました。あなたなりの優しさはわたしの体内でぜんぶ消化されました。あなたに貰った目に見える優しさを、ずっと お守りにすればよかった。


「もう恨んでないよ」のメールが わたしには 堪らなく苦しくて苦しくてどうしようもなかったんです。どうして恨まないの。死んだほうが綺麗なのに? わたしが上手に死ねたら、俺はもっと生きていたいななんて 笑ってくれましたか。


あなたは 愛してるだなんて大泣きするような人ではないと思うんです。でももしもわたしを必要として泣いてくれたなら。ほかの誰かにあまえたことをもっと後悔できました。これを言い訳にしようかなと思っています。


口でしても二千円は貰えません。いれてみても二千円は貰えません。へたな中華丼をお世辞で褒めても上達はしません。
言いにくい話ばっかですが オブラートにつつむので ちょっと聞いてもらってもいいですか。
どこまで話しましたか。 公園で慰めてくれたひとと 数日後には抱き合っていた話ですか。


ぜんぶ消しました。むかつくもの。
抱いても抱かれてもわたしは死ぬべきだなって思いました。
性交渉が好きですか?大嫌いです。笑ってる顔を見るのが一番好きです。笑ってる顔って 好きです。あったかくて優しいから。許されてる気になるから。
あの日あなたがくれた錠剤の名前が思い出せません。恨まれなくなって酷くつまんない日々です。


もしも今浮気をすることがあったら、わたしは生きますか。死にますか。もう寂しくも痛くも痒くもないわたしが。あなたの為には死ねなかったけれど、今のわたしならば 。
今のつまんないつまんないとっても幸せな日々ならば、わたしは後悔に気づけるでしょうか。それともまた許されたがるでしょうか。







家具



靴箱をさあ、もっと高いものに買い替えたほうが良いと思ったのよ。だって毎回靴を乗せるたびにネジが外れてさ、その度にわたしが玄関先で作り直すわけ。狭いからって靴箱を外に出して真剣な顔してやってるとね、「寒いから」なんて言ってあいつはドアを閉めるんだよ。それでどうにかこうにか作り直して玄関に設置しても、ありがとうの一言もないの。ふてくされてそっぽ向いて寝てやったわ。わたしのブス顔なんてそっぽ向いてるのが丁度良いんだろうけど。でね、次の日靴を乗せたらまた壊れるわけ。結局面倒くさくてそのまま。作り直さないよ〜、 ありがとうって言ってくれないもん。でも今度のひとはさ、真逆。靴箱が崩れても進んで作り直してくれると思うの。そしたらわたしありがとうっていっぱい言うな〜。わたしが作り直したとしても、彼はきっと褒めてくれると思うんだ。すごいね、ありがとうねって。  まあまだ、同棲の「ど」の字も無いんだけどね。前の人との同棲?えー、なんか思ったけどあれって同居だったのかもね。わかんない。心配してた気持ちがどこかに行っちゃったよ。ショートメールはもう返さないことにしたし。わたしって薄情者かな?そんなことなくない?だって靴箱を作り直しても「ありがとう」が無かったしさ。まあ、後付けの理由だけどね。なんとなく今それを思い出したから言ってみただけ。でもやっぱりわたし、靴箱を作り直したらありがとうって言ってくれる男のひとが好きだなあ。







終末






もしも地球がなくなるときは、車を飛ばして会いに行くよ。わたしはやっとの思いでバイトを辞めるから、あなたもその日に会社を辞めて。あんまりないお金でちょっと遠出をしたいね。マイヘアは聴くのをやめようか。RADWIMPSならかけても良い?ラーメンや肉もいいねなんて言って、きっと必ず回転寿司。はま寿司も良いけれど、八千代寿司に行きたいです。部屋で飲むのにお酒を買おう。シラフに戻って眠れるように、ほろよいで我慢するからね。最後だからちょっと高い部屋でも平気。電波の悪い部屋で良い。わたしはやっとの思いでTwitterを消すから、あなたは先輩の電話にでるのをやめて。あなたのお母さんは優しいから、多分きっと連絡をくれるよ。そしたらちゃんと「ありがとう」って言ってあげてね。わたしのお母さんは「早めに帰ってきなさいよ」なんてLINEをくれると思う。わたしもちゃんと「ありがとう」って返すからね。恥ずかしいけどお風呂は一緒に入ろうか。最後だからってエッチなチャンネルは観ないでね。あなたがくれたネックレスと写真を枕元に置くから、笑ってくれて良いからね。ロマンチックな空気は苦手だから、「生理がかぶらなくて良かったね。」なんてわたしは言おうかな。あなたは意外と素敵なことを言う気がするけれど。難しい話をしても良いけれど、とりあえず目を瞑って居ようと思う。手を握っちゃうかなんかしようと思う。地球がおわってもみんなが死んでも、あなただけは幸せなところに行けたらいいなと思う。







健忘

 
 
 

SNSで出会ったあの人やあの子のことを忘れていくことがある。それってちょっと寂しいけれど、当たり前といえば当たり前だなあ なんて。

けれどやっぱり疎遠になっていくのは、リアルでもネットでもどこか寂しくて。 もっと寂しいのは、代わりの誰かがごまんと居るということ。誰かをファボって誰かとLINEして誰かをブロックして誰かにブロックされて。それで忘れてまた優しい誰かに出会うんだな〜って。なんて。
 
 
 
 
 
 
だから代わりが居ないなあと思えるこの瞬間とかこの感じを忘れないで居たいなんてことをときどき思う。
 
 
 
 
 
 
前に、何年か付き合っていた彼女と別れた30代の男性が「次を探すよ。未練とか言ってられない。君みたいに若くないから。」と言っていたことがあって、なんでかそれを思い出すことがある。
 
 
 
 
 
 
その言葉がなんだかとっても寂しくて、わたしには不思議でならなかった。  言葉の裏にはきっと「さみしい」「かなしい」って貼ってあったんだと思いたいけれど。
 
 
 
 
 
大事なひとをまだ愛してるなら嫌いになったフリなんてしないでいいと思うんだよ。きっといつかまた誰かを見つけて、忘れてしまうよ。
だからそれまではその気持ちを大切に持っていていいと思う。
みんな大人になってしまうけれど、わたしは 悲しい時はかなしー!って泣いていいと思うし、幸せなときはさいこー!っていっぱい笑っていいと思うんだよなあ。
 
 
 
 
 
 
でも きっとそれを人前でできる人も居れば、できない人も居るのはわかる。人前でできるひとはいっぱいあまえればいいし、人前でできない人は毛布にくるまってなにかあったかいものを飲もう。
 
と 考えると、ひとの温かさっていうのは いちばんの魔法だから SNSをはさんででも感じたいものなんだろうね。
簡単に繋がれるから、簡単に忘れてしまうんだろうか。
 
 
 
 
テキトーなこと言えないんだけれど、いつも気丈に振る舞ってじっと我慢してるひとのこと嫌いになれない。大騒ぎして「死にたい」なんて口癖のひとのことも嫌いになれない。
 
 
 
ひとは幸せになっても もっともっと幸せになりたがると思うので、いま幸せを感じられなくてもきっと大丈夫。笑うことより泣くことが多くてもきっと大丈夫。
 
 
 
夜更かしはあまりしないで。薬はあまりいっぱい飲まないで。お酒に呑まれ過ぎないで。腕を傷つけ過ぎないで。じぶんのことこの世でいちばん可哀想だって思ってもいいけれど、極力誰かに同じ思いをさせないで。
 
忘れたいこと。忘れたくないこと。
 
 
 
 
 

寿司







「そのリュックまだ使ってるの?」







東京 中野 人生はじめての すしざんまいにて。







「わたし、荷物多いからね。大容量がいいでしょ。」と、笑ってみせた。彼から貰った大きなリュック、離れてからも使っていた。とくに意味はない。というか、全く意味はない。






だけど多分 きょうこのリュックを背負ってきたのは、【忘れてないんだよ】というアピールでもあった気がする。







わたしが送った「迎えに来てくれるなら、また一緒に暮らそうよ。」のメールに返信が来なくなった。

およそ2年の月日が過ぎて彼のほうから連絡がきた。







月日というのは不思議なもので、あんなにドロドロギスギスとしていた関係を、笑って寿司を食べれるほどにしてくれる。

月日がすごいのか、寿司がすごいのか。







「はまち好きじゃなかったっけ?」忘れてないんだよのアピールを、また一つしてみる。







「薬の副作用で容姿が酷くなってしまったけれど。」とは聞いていたが、正直、想像以上に彼の姿形が変わっていて なんだかちょっとさみしかった。

でも、もしかしたらそのおかげでこんなに優しい時間だったのかもしれない。彼が変わらずに居たらきっと、わたし寿司なんて奢ってあげなかった。






人に会わなくても髪は切ったほうがいい とか、副作用がおさまって痩せたらまたかっこいいんじゃないか、とかを教えてあげた。








「彼氏がね、回転寿司が好きで、デートでいつも回転寿司を食べるんだよ。」と わたしが言うと、彼はつまらなそうな顔をしてうんうんとうなづいた。








転がり込んだ日にはじめてつくった肉じゃがとか、毎朝つくったお弁当 喧嘩してゴミ箱に捨てられた日とか、薄汚い布団、あの日観たロッキーホラーショー、詰まった排水溝、「あの子の誕生日を祝う」だなんてちょっと恥ずかしいツイート。


ぜんぶ忘れていたようで、ぜんぶ忘れていなかった。








戻りたいと思うことはもう無くなってしまったけれど、もしもまた もう一度あの日に戻れるのなら、今のわたし きっとあなたに優しくできるよ。








黙々と寿司を頬張る少しブサイクになった彼に、「おいしいね。」なんて笑ってみせた。